京マチ子さま。
京マチ子さまがあの世に旅立たれた。
先日、有楽町の映画館で特集上映が組まれ、
5回券を使い切るのにどうしようかと散々悩み、
べつに悩むことはないどれでも観たいもんみとけばいいのだが
(『羅生門』は先日別の機会に観たので今回はパス)
勘のいい方はお分かりでしょうが
森雅之との共演作であるそりゃぁまぁね
(いつも『羅生門』の三船じゃない方、と説明しておる)
『雨月物語』はこれだけ有名な作品でありながら
なんとガチで未見であった。
もともとあまり日本映画の古典は観ていなかったのである。
アミール・ナデリが最新作『マジック・ランタン』撮影時のエピソードとして引用し、
聞くところによるとゴダールの最新作にも引用があるという、
1953年の映画でありながら未だに影響を与え続けている一本。
言及や引用の多さでは『戦艦ポチョムキン』並ではなかろうか(適当に言った)。
映画見ぃの基本中の基本。
それを私は観ていなかったのである。お恥ずかしい。
これはなんというかもう……
この世ならぬ存在に狂わされる男……
薄汚れた庶民がひととき見た狂夢……
あまりになめらかでシームレスな彼岸と此岸に
深々とため息を禁じ得ませんでした。
美術は甲斐庄楠音。
「デロリ」な画風で知られる画家でもあります。
この作品は、私の愛読書、久世光彦「怖い絵」に取り上げられたものです。
『雨月物語』。
黒沢清への世界の評価はこの作品あってこそかもしれません。
水の流れはまさに彼岸と此岸を繋ぎます。
うつつの裂け目のようにあらわれる女人。
竜宮城もかくや…
しかしそれは。
命からがら現に戻ってきた男を迎えるのは……
女性の念の強さ恐ろしさそして、慈しみ。
ここにあらわれる2人の女性()は、
「執念」の両面をあらわすようでした。
京マチ子。
涼やかにあらわれ、やがて蔓のように、蛇のように、獲物を絡めとり吸い尽くそうとする姿を見せ、鬼と化す。
『赤線地帯』では蓮っ葉な女(これが大阪弁ポンポンで可愛い!)、
『痴人の愛』ではワガママでしたたかで甘ったれな女(この作品はラストシーンが最悪の改悪なのであまり好きではありませんが)。
個人的に好きなのは市川崑『穴』。
女性ジャーナリストが自らをネタに記事を書くのだが
ありとあらゆる変装仮装演技が一本で観られるうえに
すごくモダンでカッコいいの!
これ全部マチ子さま!
テンポよくポンポンとやってのける七変化。
劇伴もステキです。
ストーリーにもたつきがあるのはご愛嬌ですませていいものか
私のような詳しくない物でもズズズっと思い出してその幅広すぎる演技力と艶やかさ、なんというか「物語る身体性」というか(グラマラス、と一言では言えん存在感ですよなぁ)
全く、なんと申しましょうか。
(シルヴァーナ・マンガーノと私の中では同カテゴリなんだよね。わかってくれる人僕と握手。)
まぁあれだよね。
私が生まれる前に森雅之は亡くなっている。
高峰秀子も少し前に亡くなった。
原節子も程なく。
そして京マチ子。
あの世でモリマを巡る超大作撮れるぜ!
個人的には監督は市川崑を希望!
近日上映!うそです!
そう考えると私あまり死ぬことが怖くないと思うんです。