映画について私が全然知らないいろいろな事柄

@ohirunemorphine が、だらだらと映画についてあれこれ考えます。

(京都開催のこのタイミングなら言える)今更ながら2019東京フィルメックス感想諸々。

時間がある時に書いとかないとね。

 

今更ですか?と言われそうですが

2020年3月13日から20日まで

demachiza.com

このタイミングでアップしないと完全に機会を逃す。

昨年11月の東京フィルメックス感想です。

 

オフィス北野のお家騒動のあおりを食って危ないところを

東京国際映画祭のスポンサーでもある木下グループに助けられ

ほっとしたのは一昨年のこと。

 

……1年、開催直前でほっぽりだすとは鬼だろうて。

  

このあたりのことを記者会見で一切触れなかったフィルメックスの皆様大人すぎ。

まぁ京都の映画制作会社シマフィルムさま、IT関連企業コネクションズさまが新たに協賛について無事開催。

 

シマフィルムとフィルメックスといえば

第5回に『おそいひと

第10回に『堀川中立売』(共に柴田剛監督)が

コンペティションに選出されています。

良いご縁に恵まれて……

今回の京都上映のラインナップに入っています!

出町座にはまだ行く機会に恵まれていないので

いつか京都に行く機会があれば是非行ってみたいです。

 

また、香港の騒乱の影響を受け、

とんでもない直前に審査委員長が変わるというアクシデントも。

ほんとに急遽来日してくださったトニー・レインズさん。

アジア、大混乱中です(日本無能すぎて以下略

 

さて。

今回はゲストも豪華でした。

オープニング『シャドウプレイ』とあわせて

第1回最優秀監督賞『ふたりの人魚』が上映された、ロウ・イエ監督。

『ヴィタリナ』のペドロ・コスタ監督。

『HHH 侯孝賢』のオリヴィエ・アサイヤス監督。

これだけで結構「おぉぉぉ」って感じです。

同時期にアンスティチュ・フランセで企画があったので、

 ひょっとしたらフィルメックスはついでだったのでは、という邪推は

 ひとまず横に置いておきましょう

 

われわれの中でいちばん盛り上がったのは……

フィルメックス常連、ペマツェテン『気球』QAゲスト。

私ら(特に連絡取り合ってるわけでもないのに、会場でばったり逢うとキャァキャァ女子話が止まらない、数少ない映画友達です……お友達欲しいよぅ)はすっかり、

 

来るのはまたペマ師匠でしょ

 

と油断していたんです。

もはや運動会とか文化祭レベル

そしたら

 

来たのはなんと

ジンパさん!

昨年上映された『轢き殺された羊』に引き続き主演を務めた方でした。

うぉぉぉぉ

 

もう見るからに肉1キロまんじゅう15個ペロリと平らげても納得できるワイルドさと

インテリジェンスな雰囲気漂う偉丈夫でございました

やだまぢでかっこいい!

絶対日本ではお目にかかれないぞこんなお方!

 

もう女性陣こぞって群がった。

めっちゃ群がった。

羊にすらこんなに寄ってこられねぇだろってな勢いで群がられすぎて

ジンパさんすっごい挙動不審になりかけていたところに

 

フィルメックスの鎮守の神ナデリン降臨

 

なぜか常に東京にいる気がするイランの巨匠アミール・ナデリ監督、サイン待機列に乱入ししっちゃかめっちゃかに。

 

イチヤマサァァァン」とナデリンが吠え、

 おろおろするジンパさんと

 苦笑しながらも混じる市山ディレクターの

 幸せなスリーショットでした。f:id:ohirunemorphine:20200215203009j:image

 

(なお、岩波ホールで上映されている、ソンタルジャ『巡礼の約束』にも

 ジンパさんご出演されていますが、

 お名前表記は、より発音に近い「ジン」とされています。濁点半濁点!

 固有名詞の表記揺れに関しては

 フィルメックスあるあるなので、そりゃしゃーないわ、

 気にしないことにしましょう。

 リティ・パニュ→リティ・パン、とか。)

 

さて。

今回のフィルメックス裏テーマは

オンナはツライよ」に尽きたと言えるでしょう。

もう様々な状況で女性の受難をこれでもかと見せつけられました。

一応オンナとしてはまぢでツライことこの上なかった。

「産む性」「所有される性」であることをこれ以上なく思い知らされました。

 (そう考えると、「産む機械」「所有される対象」としての存在から解放されるということは幸せなことなのかもしれない!)

 

しかしよくよく考えてみると、

監督は男性ばかりなのです(日本からの出品『つつんで、ひらいて』の広瀬奈々子監督除いて)。

特に私はあるいくつかの作品で、

で? それに対してあなたはどう思ってるの? それでいいと思ってんの?」と

胸ぐら掴んで問いただしたくなりました。

 

いや、女性の辛さに焦点が当たりがちなのは今に始まったことではありません。

第14回最優秀作品賞『花咲くころ』はグルジアの誘拐婚児童婚を扱っていましたし、

第18回の同賞、インドネシア映画『殺人者マルリナ』(『マルリナの明日』)も、女性に襲いかかる悲劇が発端です。

しかし、この作品たちは、はっきりと作中でそれに対して異をとなえています。

少女は怒りを込めて男舞を踊り、

蹂躙されそうになった未亡人は凄まじいばかりの反撃に出ます。

その痛快さといったら!

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そして両方とも、監督は 女性なのです。

当事者意識がそこにあるのかどうかは知らない。けど、それを描いたのは、女性。

 

第20回。

ここまで見事に「女はつらいよ」映画が揃っていて

監督は全員男性ってのは

どうコメントしていいのかわからない。

個人的には「男性・女性」とたった二つで人間を分けてしまうのはあまり好きではないのですが……

 

審査委員はものすごくバランスが良かったので……

トニー・レインズさんが「アジア女性が2名、日本男性が2名、そして白人のおっさんが1人」とおっしゃっていたように、審査の段階でふるいがかけられたのではないかと思います。

授賞された作品をみてなんとなくそう思ったのですけどね。

最優秀作品賞は(もはや恒例)ペマツェテン『気球』。

中国政府の政策とチベット的価値観のジレンマに悩む夫婦の物語。

そりゃ産児制限すれば輪廻も渋滞しますわ

 

特別賞はグー・シャオガン『春江水暖』。

水墨画の絵巻物をそのまま映し出すようなチャレンジングな長回しと、普遍的なファミリーヒストリー

文化的に「家」に縛られかねない女性の背中を押すのが、ほかでもない「その家のおばあちゃん」という優しさ。ほろり。

そしてスペシャルメンションは『昨夜、あなたが微笑んでいた』『つつんで、ひらいて』と直球ドキュメンタリー。

まぢでしんどい作品が多かったのですこしホッとしました。

 

さて。

そんな今回のの裏テーマでしたが。

作品として「女の辛さ」に寄り添う、うまい処理をしたなと思った作品は

ミディ・ジー『ニーナ・ウー』が挙げられます。

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#MeToo運動に触発され、主演ウー・カーシー自身が脚本を手掛けた本作。

地下アイドルが地上に出るときに浴びる壮絶な洗礼が、ヒッチコックあるいはリンチ調サスペンスタッチで描かれます。

MeToo映画としてというより、どす黒いバックステージに心身を蝕まれていく女優の物語で、

サスペンスとして非常にスタイリッシュな仕上がりです。

そこで、新人女優にとっては非常に抵抗のあるだろう、とあるシーンの処理が、

なんというかとてもデリカシーが感じられるものだったのです。

これが監督のアイディアだったらなんという繊細さだろうと思いますし、

これがウー・カーシーさんのアイディアだったら「本人よっぽど嫌な目にあったんだろうなぁ」と悲しくなります。

 

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ちょうどこの作品を観た直後、『血観音』(ヤン・ヤーチェ、2017)を観る機会がありまして。

台湾本国で興行的にも大成功し数々の受賞も果たしたこの作品。ウー・カーシーさん、もろにセクシー担当で……日本のAVを観て役作りをしたという裏話も聞いてしまうと……その時の経験が生きちゃったのかなぁ、とか。

 

次いってみよう。

一見「禁断のメロドラマ」、

みようによっちゃ「うらやまけしからん」作品だと思わせておいて、

実はとんでもなくシビアな政治性を持っているであろう作品が、アンソニー・チェン『熱帯雨』。

私はこの作品2回観ました。そして最初は騙された。

私のまわりでは結構この映画は賛否分かれてまして、特に第14回観客賞を受賞した前作『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013)をご覧になった方におかれましてはもう生理的にダメというお声も伺ったのですが、

私は別にそうとも思わず、むしろ「エモいな……」と好感すら覚えたのです。

心震える感覚を「エモい」の3文字で表現する頭の悪さは自覚してますので怒んないでください

 

しかし。2回目で気づきました。

シンガポールでの移民の立場を。

シンガポールにおいて、中華系移民が「自ら望んで文化を失いつつある」意味を。

 

私が気になったところは「言語を捨てつつある」というところです。

言語は民族のアイデンティティ。植民地政策においては、まず「言語を奪うこと」から始めるということはよくあることでしょう。

多民族かつ外資系企業も多い、ハブ地点であるシンガポール公用語は英語です。そして、おそらく稼げるホワイトカラーになるためにはよりネイティブな英語が必要とされることでしょう。

人口の7割を占める中華系ですが、彼らはどんどんその「アイデンティティ」を放棄しつつあるように思えます。

わざわざ中国語を学ぶために先生についてもらうなんて、ってな感じ。

 

そしてこれは監督のティーチインで語られたことですが、

シンガポールで中国語教師として働く人々はほとんどマレーシア移民なんだそうです。

シンガポールの移民政策の厳しさはよく知られるところ。

そして、この主人公の中国語教師は、シンガポール人と結婚を果たし、シンガポール国籍を取得できるかどうかというところです。


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おなかに注射を打ち、苦痛に耐える表情が映し出されます。

私は鈍くて「インシュリンかな」だったのですが

あれ

 

排卵誘発剤の注射

つまり

 

妊娠のための苦痛だったのですね

 

子は鎹。

いや、子どものいないシンガポール人とマレーシア人夫婦って、政策的にとても危ういものなのだとわかります。

しかし

シンガポール人の旦那は夫婦の子作りにあまり関心がない模様。

さらには

 

不倫してる!

 

浮気不倫につきましては昨今日本でもさんざん話題になっておりますが、

まぁ「奥さんのつらさを放っておく」ってのもしんどい話ですわな。

 

しかし彼女に想いを寄せている人がいました。

それは「恋とも憧れともつかないもの」。

本人すら気づかないかもしれなかった感情。

気づかないままの方が幸せだったのでしょうか?

 

ああ、いずれ日本でも公開されるんじゃねって作品の核心を避けるのって難しいなぁ。

 

少年の「先生への憧れ」は

ついに暴力的な手段でその想いを表出する羽目になります。

はっきりと「女はつらい」瞬間ですが

彼女はそれを赦します。

武術のチャンピオンである彼はそれしか手段を知らないのでしょう……

そして彼女は「愛情のない結婚生活に行き詰まりを感じていた」。

 

少年ははじめての恋にウキウキ。

先生は……

多分複雑な思いをしてるんだろうけど……

愛情を欲してる時に好意を寄せてくれる人がいるって、なんにせよ「嬉しくないわけがない」のよね

まぁここからはネタバレを避けるために

当然2人は別々の道を歩み

夫婦も別々の道を歩むとだけ申し上げましょう

 

しかし

このシーンで私の涙腺は決壊しました。

 

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「はじめてだから忘れたくない」

「いつかは忘れる」

 

わかりますか私の心がビリビリくるこの感覚。

初々しい記憶もいずれ薄れるという切なさ。

真夏の雨のように、激しく打ちつけそして蒸発してしまう想い。

 

離婚した彼女は故郷に戻ります(シンガポールでの移民の立場の弱さ……

このシーンが、ウォン・カーウァイ欲望の翼』っぽくてまた素敵

彼女は少し微笑んで空を見上げ……

 

そういえば、「アンソニー・チェン監督ってヤスミン・アフマド監督好きなんじゃないか」と思わせる、小道具の使い方が見られます。例えば……

 

避けるぞ、ネタバレ。

 

『お守り』のショットがすごいさりげなくいいタイミングで入ってくる!

彼女が泣いているのか笑っているのかわからない声だけが響きます。

彼女が帰国する本当の理由はこのシーンにあるのかもしれません。

 

そしていい味出してるおじいちゃん。隠れたストーリーテラーです。

(めっちゃいい笑顔のお写真を見かけたのですが見つからず。)

 

あれ?

ほとんど『熱帯雨』のことしか喋ってねーじゃんか。

「子どもが欲しい」という女性の思いについてとか

すごくいろいろ考えてしまう本作ですが

この辺にしておきましょう。

 

ほかに、

昨年の裏トリビュート監督がウォン・カーウァイなら、

今年は侯孝賢だな! 決まり! 

『気球』『春江水暖』どちらにもその影響が見られます。

『フラワーズ・オブ・シャンハイ』の魔術的ワンシーンワンカット……アヘンに当てられて夢のように時間は過ぎ……

 

あれ? もう終わり?

 

アサイヤス『HHH 侯孝賢』でのカラオケ熱唱シーンで場内に笑いのさざなみが……

あそこで「乾杯」を全力で歌いたくなったのは私だけではないでしょう。

 

あ、5000字超えちゃった。

このへんにしといたるわ。

 

ところで。

この2人と

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この2人

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同一人物の組み合わせってちょっとわかんないですよね