映画について私が全然知らないいろいろな事柄

@ohirunemorphine が、だらだらと映画についてあれこれ考えます。

ベストテンを出していたら一本の映画について語っていた。

年末なので今年のベスト映画を出してみたの。

今年観た映画はかなりの数の旧作と、

劇場公開すらされるのかわからない新作がほとんど。

基準難しいよね。

旧作がまたかかるってことは「いい映画」だからってのもあるので、今回省きました。

 

じゃん。順不同で

 

ブラインド・マッサージ
ホームレス ニューヨークと寝た男
お嬢さん
ムーンライト
ベイビー・ドライバー
日曜日の散歩者
イスマエルの亡霊たち
ジョニーは行方不明
星空
52㎐のラヴソング

 

日本映画はほとんど観ていないのと、名画座で黄金時代の邦画観ちゃうと、

やっぱり貧しいんだよね…悲しいことに。

その中で気を吐いてたのは


仁光の受難
アイスと雨音
南瓜とマヨネーズ
バンコクナイツ

 

そもそも観てるものが偏ってる自覚はある。

でも

 

なんでこれがベストに入ってるの??

 

ってわれながらおもうのもあるよ。

 

特に

『ホームレス ニューヨークと寝た男』

 

これ私にはすごく刺さったんだけど、ベスト級かと言われるとそんなことはないと思う。

けど、ツボってこういうこと。

これある意味落語に通じるのよ。

ドキュメンタリーは落語と並んだ!

 

落語にはいい歳こいてどうやって暮らしてるのか聞いちゃいけないような与太郎がしばしばあらわれる。

「ど貧乏の生活の知恵」が聴く人の爆笑を誘う。

ダメな状況を笑い飛ばすってつよいんだ。

 

『ホームレス』。マーク・レイ。映画製作時には50代半ば。

パッと見オシャレなナイスミドル。自称フォトグラファー、モデル、俳優。

しかしその実態は、どちらもまともに仕事がなくて友達のアパートの屋上でホームレス生活。

そのサバイバルぶりは「都会のキャンパー」と言っても過言じゃない。

 

しかし普通に考えてみよう。

この歳にして「持ってない」なにひとつ。

仕事、家族、恋人、住む部屋。

しかし本人は「僕は写真家、モデル、俳優」と言い切る。

 

えええええ

信用しねぇよ!

 

彼の凄いところはそれでも毎日毎日屋上からご出勤して1日お外ですごし、ダラダラすることがない。

だって「おれ仕事してるし」。

すげぇポジティブ!

 

なのかどうかは知らないよ。

 

かつては一流ファッション誌にも出てた。ショーにも出てた。モデル嘘ではない。

映画にも出てる。(エキストラだけど。)

写真だって撮ってる(ほとんどその辺の人に声かけて撮らせてもらってるだけ)

よくよく考えると、

このナイスなおっさん、何者でもないじゃん!

 

なんでこの人の生き方にこんなに共感と情けなさを同時に感じるのか直視するのが痛い。

けどがんばる。

 

私は昔、とある仕事をしていた。ちゃんと働いていたよ。

けど、その仕事の仕組みに嫌気がさして(年々給料が下がるのにも嫌気がさして…最低賃金が当たり前ってどーゆーことだ)辞めた。

けど今もそちら方面は気になって『エクス・リブリス 』をわざわざ山形まで観に行って、レビューを(頼まれてもいないし読んでくれる人もいないのに)書いた。意識はまだそちらの人なんだ。現場から離れて長いし、もうたぶん戻れないのに。

 

その後なぜか変な仕事に拾われてしまった。実力に加え愛嬌とずうずうしさが欠かせない仕事だ。どれひとつ私にはなかった。あったといえば「何十年か磨けばモノになるかもしれないし磨耗してなくなるかもしれない」程度の素材だった。

1年半後、とある事情で辞めざるを得なかった。けどその後しばらくそちらで食っていこうと頑張ってみた。

無理だとわかって辞めた。コミュ障がバレたのだ。

 

色々前後のこともあり、4年くらい「何者でもなく」過ごしている。

なにしてる人、という意識が持てないので自己紹介のある場は非常につらい。そういうところから逃げ続ける生活である。

 

が、マーク・レイ氏は意図的にか芯からポジティブなのか知らないが、かつて自分がやってきたことを、あたかも「今もそれでやっていけてるように」振舞って憚ることがない。

 

ニューヨークという弱肉強食の街で、彼が生きていくために身につけた知恵が「ハッタリ」なんだとしたら、それは身を守る殻だ。

しかし、身を守るため、と同じくらい重要な意味がある。それは

 

食っていく手段がイコール「その人のアイデンティティ」ではない

 

落語にもそういう噺はあるんだ。

仕事はないけど、おれは噺家だ という矜持が身を救う。

現実世界では矜持なんて腹の足しにもならないけど、

「自分はこれだ」と思えばこれなんじゃないか。

そう考えると私も救われるんだよ。

 

それには他人の目を気にしないところと気にするべきところを区別しなきゃならない。

モサくてコキタナいモデルや俳優なんていますかね?

マーク・レイさん、そこにはものすごく気を使ってる。家はなくてもそのために必要なのがどこなのかちゃんと知ってる。

トレーニングジムと公衆トイレ!強力なインフラだ。

 

側から見たら痛いおっさんなのかもしれない、てーかどう見ても痛いおっさんだよ。

自分に引き比べて見てしまう。私も痛いおばさんだ。うん、知ってる。

道を外れちゃった人に風当たりは優しくないよ。

日常の話して笑いをとれるなんてそれこそ落語だ。しかし笑ってくれる人は「他人事」として笑ってくださる。あまり生々しく話すとドン引きだ。私だって線の引きどころはわきまえてる。

しかし時々心の中の中学二年生童貞が大爆発して引かれる

 

映画の中のマークさんは、どこか無理をしてるような強気さだ。

ニューヨークで何者でもなく生きるのは実際どんな感じ?若ければイーストヴィレッジのボヘミアン気取れるかも。けど……

しかし彼はめっちゃ愛嬌がある。友達もいる。一夜の恋にも事欠かない。助けてくれる人はいるのだ。大事。

 

さてどうするか。

私は身近に親しい友達はいない。年何回か連絡取り合う人ならちょっとは。

住む場所はある私は、そこがちょっとマークさんとちがう。孤独といえば孤独。

けど、「何者にも今さらなれそうもない」現実をサバイバルして無事に死ぬためには、与太郎の知恵とマークさんの知恵を積極的にお借りしていきたいと思うのだ。

 

マークさんはもう50代後半か。

どうなさっているのだろう。

無名の賢人のドキュメンタリーが私の心に爪痕残した理由についてお話しした回でした。

 

『ホームレス ニューヨークと寝た男』

www.youtube.com

2014 / オーストリア・アメリカ / 83分

監督 トーマス・ヴィルテンゾーン

出演 マーク・レイ

音楽 カイル・イーストウッド マット・マクガイア