映画について私が全然知らないいろいろな事柄

@ohirunemorphine が、だらだらと映画についてあれこれ考えます。

図書館映画について思ったまんま書くよ。

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コゴナダ監督『コロンバス』(2017)と

エミリオ・エステベス監督『パブリック 図書館の奇跡』(2018)と

ちょっとたまたま図書館が舞台の映画をいくつか観たので

思いつくまま書いてみようと思いまして。

ちょうどこれもソフト化されるというタイミングだし

moviola.jp

 

もっとも私は公共図書館に勤務経験はないんですよね。

大学図書館を何箇所か転々としてきました。

国内屈指の規模の大学図書館から

閲覧室からライターの音がするのでスッ飛んでいって取り上げるレベルのところまで

いろいろなところを見てきました。

本当の公共図書館の現場については伝聞でしか聞いたことがないんです。

 

ワイズマン『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(2017)につきましては

こちらにレビューとして「観たまんま」「徒然なるままに」書いていますが

これは「ガチ世界最高峰」の図書館のお話。

 

なおこちらは観に行ったときのレポート

ohirunemorphine.hatenablog.com

もう眩しくていられませんでした。

(しかしその後ワイズマンの過去作を観る機会があり、

 この人しれっととんでもない皮肉ぶちかますんじゃないか と思うところあって

 ラストシーン近くでとても気になった部分を確認したいと思っています。

 そういう意味でもソフト化はめでたい。)

 

そして実際自分が学校で「アメリカでの司書の地位の高さ」を聞かされてきたせいで

わーまぢで専門職憧れるわぁぁぁぁぁ

だったのですが

これはトップおぶトップの世界のお話だったのですよ。

 

『コロンバス』は「建築映画」としても非常に評価が高く、

その静謐で構築的な美しい画面も印象的な佳作ですが

ごめんなさい、私はたった一言のセリフで全て持ってかれてもうダメでした。

「図書館学修士なんて無駄 仕事がない」

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図書館に勤める女の子に対して男の子が放った一言。

アメリカでもインディアナ州ではそうなんだ……

地方によっては事情は様々とは聞きましたが……

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クレオ・ロジャース記念図書館

 

一言のセリフがぐっさり刺さり、

もうあとはあんまりよく覚えていません。

ストーリーより画面で語る映画だったのが救いですわ。

 

しんどいわぁ

仕事ないんだよなぁまぢで。ほんとに学位なんて無駄なんだわ。

と思いながら昔の同級生を思い返すと

 

学部で国家二種に合格して各地の図書館に正職員として散っていった友人たちとか

修士(博士前期課程)から博士(博士後期課程)に進んで今となっては大学准教授、とか

そんなんばっかりいてました

ごめんなさい私の努力不足です

そりゃ縁も切れますわ

こんな腐れた人間とは関わってはいけない人種に進化あそばして……もう私たち世界が違うの

 

まぁ私は現場にいた頃ちょっと諸々のシステム上のエラーに巻き込まれまして

その後心理的に図書館に足を踏み入れるだけで心臓がバクバクするという

働きたくても働けない状態にある、ということは言わせてください。

私の名誉のためにも。

あえて「システム上のエラー」ということにしておきます。

どーなんでしょうね、アメリカではこの「システム」あるんでしょうかね。

 

あと「このシステム」では図書館員のお給料めたくそ安っす過ぎて食っていけない。

戻りたくても戻れない、もうひとつの理由がこれです。

 

『パブリック 図書館の奇跡』には

ひょっとしたらアメリカでも図書館員のお給料って安いんじゃないかしら

と思わせる描写がありました。

後述します。

 

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恐ろしいほど大量のピザが図書館に届けられるシーンがありまして。

このシーンには「前振り」があります。

 

エミリオ・エステベス演じる図書館員グッドソンくんは

仕事終わって帰宅するときピザをテイクアウトするのですが

いつもプレーンを選んで自分で具をトッピングします。

その具は自家栽培 その方が安く上がるからって

 

この細かい金銭感覚。

いや、わかりませんけど。

これは彼の過去にも関わってくることかもしれませんので

ちょっと後半にほっぽります。ロングパス。

 

   全部後半に続く投げっぷりでスミマセン

 

厳寒のオハイオ州シンシナティ公共図書館がホームレスに占拠されるという

ざっくりした粗筋。

これは公共図書館がどういう位置づけの施設であるかが関わってきます。

そして、図書館員グッドソンくんの過去にも関わってきます。

 

まず公共図書館とは「社会福祉」と不可分な施設なのですよ。

すべての人に対して開かれ、必要な情報へリーチするための施設なのです。

単に本を貸し出すだけではない。必要な学び、必要な情報を提供する場なのです。

あらゆる人々を受け入れる場所なのです。

しかしその前提によっていくぶんかの問題が生じます。

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『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』と比較すると割とリアルだなと思うのは

「すべての人に開かれている」ゆえの難儀を描いているところなんじゃないかな、と思います。

ドキュメンタリーに比較してこちらの方がリアルだなと思ったのはちょっと不思議なんですが。

より地域に開かれた場所、ゆえに起きるトラブル。

 

公共図書館に勤務している友人が言っていました。

ホームレスが居ついてどうしたらいいのかわからない

すべての人に対し開かれた場なんだから居てもいいじゃん、というのは綺麗事。

私も一度あります。ホームレスにベタ付きでレファレンスする羽目に陥ったこと。

 

凄かったんです。匂いとか。

そういう人たちに触れられた資料大丈夫かってレベルだったんです。

くそ偏見って言われても仕方ありません。

しかし、それを口に出すことは許されません。

 

数えるほどしかそういう事例にでくわしたことがない私がこう思うんですから、

ホームレスに屯されたらどうなるかだいたいわかります。

どうなんでしょうね。

 

『パブリック 図書館の奇跡』では

「臭い」とお引き取り願ったホームレスに訴えられる、というくだりがあります。

簡単に言えば「排除された人に対する人権侵害」という理屈です。

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図書館の自由に関する宣言」に

「すべての国民は、図書館利用に公平な権利を持っており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない」

とあります。

アメリカの「図書館の権利宣言」にも同じような文言があります(あちらが大先輩なんでしょうけどね)。

しかし、基本的人権とは「公共の福祉」という縛りがあったような。

ちょっと調べたら、少し古いですが武蔵野市の事例が見つかりました。

アメリカではどうなんでしょう? 

 

理想は理想なんですけどねぇ

ホームレスがトイレ占拠して歯を磨いたりお洗濯したりするのってそれも寛容であらねばならないのでしょうか。

情報を得るための手段として提供しているインターネットで出会い系サイトやらエロサイトやらを閲覧されるのも寛容であらねばならないのでしょうか。

 

それを否定することはできません。あくまで「理念」としては。

そういえば私にもこんなことがありました。

 

学生が図書館でYouTube観ながらオタ芸踊ってたのを眺めてたとか

 

必要な情報を収集する手段として提供しているのですから、彼にとってそれは必要な情報なのです。まぁそれは実害ないし面白かったので放っておきましたが。

 

あとは「ヤのつく職業の方々がいらっしゃるので盾として重宝されてしまう」男性図書館員の話も聞いたことがありますな。

女性の多い業種なのでそういうところでも矢面に立たされてしまうのだそうで。

彼は護身術を習い始めたそうな。

 

と諸々「開かれた施設の難儀」をあれこれ聞いたことをお話ししてきましたが、

公共施設の方々って神ですか仏ですか。心が広くなければやっていけません。

まさに「本と人が好き」じゃないと務まらんです。

 

ここまでは私が見て聞いてきた話ですが、

結局『パブリック 図書館の奇跡』は

まさに「奇跡」としか言いようがない物語なのですよ。

 

図書館員グッドソンくん自身が荒んだ生活のホームレスだったということ。

「開かれた施設」図書館で学び、そこから抜け出し学位まで得ることができたこと。

自らが図書館の職員として仕事を得るということができたこと。

そんな彼だからこそ、厳寒の街中で過ごすホームレスを「放っておけなかった」こと。

また彼を見出し、職員として雇った館長が素晴らしい人格者であったこと。

 

奇跡ですよ。私にとっては奇跡としか思えません。

教養を身につけることによってどん底から抜け出すことができるということ。

シンデレラストーリーですかって。

ホームレスがゲスなTVレポーターにマウント取れる「教養」。

 

しかし、そういった経緯で図書館員になったグッドソンくんだから、

ちょっと身分は不安定なのかもしれません。

プレーンピザとトマトピザの価格の差に敏感になってしまうくらい。

思わずデリピザが食べたくなるシーンですが、実際そんなシビアさを思うと

どうなんでしょうね?

 

アメリカでは解雇は簡単だと聞きます。

こと「図書館」という業種においては

簡単に解雇されてしまうのと

「日本の図書館業界にのさばってるシステム」とどちらが安心なのでしょうか。

ふと考えてしまいました。

(注・日本で幅きかせてるシステムでは、概ね「雇用期限」があります! さぁどっちがいい? )

 

どうしても「図書館」という存在には愛憎拮抗する感情があり

それは「存在」としての図書館に対する感情と「それを運営するシステム」のクソさに対する感情ではありますが

ついつい長文失礼いたしました。

 

なお、

『エクス・リブリス』にも『パブリック』にも

すごい質問が矢継ぎ早に来る場面がありましたが

私が思い出せる限りいちばん説明に難渋した案件が

マルセイユはいつ村か町から市になったのか」という電話問い合わせで

(これはうちらが回答することではありません! 自分で調べるために資料はあるんです!)

 

回答するのに軽くレポート書けるくらいに調べ込む羽目に陥ったのが

「サンヤスカガキとは何か」という質問でした

 

授業で指定された雑誌記事が借りられちゃってて読めない! タスケテ! 

という学生には

とりあえず君の住んでるところの図書館にあるか調べよう! まずは落ち着け!

とかそういうこともありました

 

こういうことも図書館員のお仕事なので

「本読めて楽ちんね」とか

「いつも棚の整理してるあの人たちね」というと

中の人たちがプンスカしてしまう可能性がありますのでご注意ください