京マチ子さま。
京マチ子さまがあの世に旅立たれた。
先日、有楽町の映画館で特集上映が組まれ、
5回券を使い切るのにどうしようかと散々悩み、
べつに悩むことはないどれでも観たいもんみとけばいいのだが
(『羅生門』は先日別の機会に観たので今回はパス)
勘のいい方はお分かりでしょうが
森雅之との共演作であるそりゃぁまぁね
(いつも『羅生門』の三船じゃない方、と説明しておる)
『雨月物語』はこれだけ有名な作品でありながら
なんとガチで未見であった。
もともとあまり日本映画の古典は観ていなかったのである。
アミール・ナデリが最新作『マジック・ランタン』撮影時のエピソードとして引用し、
聞くところによるとゴダールの最新作にも引用があるという、
1953年の映画でありながら未だに影響を与え続けている一本。
言及や引用の多さでは『戦艦ポチョムキン』並ではなかろうか(適当に言った)。
映画見ぃの基本中の基本。
それを私は観ていなかったのである。お恥ずかしい。
これはなんというかもう……
この世ならぬ存在に狂わされる男……
薄汚れた庶民がひととき見た狂夢……
あまりになめらかでシームレスな彼岸と此岸に
深々とため息を禁じ得ませんでした。
美術は甲斐庄楠音。
「デロリ」な画風で知られる画家でもあります。
この作品は、私の愛読書、久世光彦「怖い絵」に取り上げられたものです。
『雨月物語』。
黒沢清への世界の評価はこの作品あってこそかもしれません。
水の流れはまさに彼岸と此岸を繋ぎます。
うつつの裂け目のようにあらわれる女人。
竜宮城もかくや…
しかしそれは。
命からがら現に戻ってきた男を迎えるのは……
女性の念の強さ恐ろしさそして、慈しみ。
ここにあらわれる2人の女性()は、
「執念」の両面をあらわすようでした。
京マチ子。
涼やかにあらわれ、やがて蔓のように、蛇のように、獲物を絡めとり吸い尽くそうとする姿を見せ、鬼と化す。
『赤線地帯』では蓮っ葉な女(これが大阪弁ポンポンで可愛い!)、
『痴人の愛』ではワガママでしたたかで甘ったれな女(この作品はラストシーンが最悪の改悪なのであまり好きではありませんが)。
個人的に好きなのは市川崑『穴』。
女性ジャーナリストが自らをネタに記事を書くのだが
ありとあらゆる変装仮装演技が一本で観られるうえに
すごくモダンでカッコいいの!
これ全部マチ子さま!
テンポよくポンポンとやってのける七変化。
劇伴もステキです。
ストーリーにもたつきがあるのはご愛嬌ですませていいものか
私のような詳しくない物でもズズズっと思い出してその幅広すぎる演技力と艶やかさ、なんというか「物語る身体性」というか(グラマラス、と一言では言えん存在感ですよなぁ)
全く、なんと申しましょうか。
(シルヴァーナ・マンガーノと私の中では同カテゴリなんだよね。わかってくれる人僕と握手。)
まぁあれだよね。
私が生まれる前に森雅之は亡くなっている。
高峰秀子も少し前に亡くなった。
原節子も程なく。
そして京マチ子。
あの世でモリマを巡る超大作撮れるぜ!
個人的には監督は市川崑を希望!
近日上映!うそです!
そう考えると私あまり死ぬことが怖くないと思うんです。
春の台湾、文青おばさん歩く。
私の仕事は読めない。
クッソ忙しい時とクッソ暇なときがランダムだ。
例年1月2月は暇である。
よって、来る仕事は全力でゲットしなければまったく収入がない。
… と思ったら、どちらも下旬に死にかけるハードさ。上旬暇だったので月の稼ぎは大したことはない。
3月4月からは繁忙期に入るが、月をまたぐころ少し余裕ができるはず… と思って、行くことにしたのだ、台湾へ。
実はこれが凶と出る……仕事、来ちゃったのだ……
まぁいい。
行ってやる。
今回は高雄から台北だ。
高雄で食い倒れしてやる!あれもこれも食べたい!
牛肉麺の有名店でズルズルしたり、ひたすら歩く歩く愛河沿い。
なんつーか、ちょっと他所者にとっては緊張感がある雰囲気。大阪っぽい。
しかしこんなところを見つけてしまったのですよ。夕暮れ時の愛河のほとり。
・高雄市電影館
ここすごかったっすよ。ひぇぇって変な声でた。
ここだけでフィルメックスのラインナップ網羅できる勢い…
観ていきたかったのですが、私が高雄に滞在している間には目ぼしいやつはかからないのでした。
蔡明亮『ふたつの時、ふたりの時間』(2001)サイン入りポスターがあったので撮ってきましたよ。
そうそうたるアート系ラインナップの中異彩を放つ、山下敦弘『ハード・コア』、時間が合ったら観たかった。
・高雄でフランス映画
おしゃれアートスポット「駁二芸術特区」でこの作品がかかっていた!
日本ではアンスティチュ・フランセの英語字幕でしか観られなさそうなこの一本。
昨年の東京国際映画祭で上映されたやつです。
しかしよくご覧ください…小文字のtiffはポスターに載っていても、大文字のTIFFは載っていないのです(ため息)。
まぁ暑いし、暇だし、日本ではなかなか観らんなさそうだし、観ていくか……
チケット買うのに一苦労
いや、私が英語全然ダメなのが悪いんです。仕方がないので、メモ帳に
Louis Garrel 15:40 screen6
とだけ書いて見せる。店員さんごめんなさい。
そしてどうも他のシアターで舞台挨拶してるらしく、中に入れてもらえないw
えらく人がいっぱいいるなと思ったらみんな野次馬だったw
今度はGoogle翻訳のお世話になる。
1度観てるからどってことあるまい、と思ったが
結構忘れてるわ
そして当たり前ながら英語字幕がない
記憶にハタキかけながら必死で追う画面……
あんまり言葉がわからない中観るルイ・ガレルの身体の使い方は、たしかにジャン=ピエール・レオの後継者ともいえる疾走感(こけそうな危うさも含め)がありました。
ちなみに今回の台湾旅行、1番日本語通じたのは高雄の宿のおばちゃん!ペラペラでした。
夜、おばちゃんのバイク、ノーヘル2ケツでマッサージ屋行ったのはヒヤヒヤいい思い出。
どこかで見たような景色
SABU『ミスター・ロン』の冒頭だよね。
昼気がつかなくて……ライトアップをお楽しみください
てーかまぢで台湾日本語通じなくなってきてる……なぜか日本映画はバンバンかかっているんだけど、同じ映画をたくさんのシアターでかけてるだけなんだよ。
台北では、中島哲也『来る』と、堤幸彦『十二人の死にたい子どもたち』がめちゃめちゃかかってた。
なぜ『翔んで埼玉』がこないのだ
・新旧台湾ニューシネマに想いを馳せる
台北101からほど近いここは
「台北眷村文物館」(四四南村)です。
1949年から60年代、大陸から渡ってきた人々の住まいを展示しているところだそうです。
眷村。私にとっては『牯嶺街』で小明とクレージーが睨み合うあのシーンが思い出されます。
ちなみに、私がとても好きな映画、張作驥『酔・生夢死』(2015)フィルメックスで上映され、あまりの好きさ加減に再生できもせん円盤を現地で購入してしまいましたが、このロケ地も眷村建築だそうで。水辺のあの建物…今度行ったら宿題にしよう。
ちなみに、どんどん取り壊されつつある眷村建築ではありますが。
こんなことがありました。
黃熙『台北暮色』の舞台、古亭あたりから牯嶺街は歩けない距離ではありません。
まぁノープランやることがないと歩きがちです。ぶらぶらぶらぶら
YouBike借りるのに失敗したのです
クレカ情報入れといて借りらんないってさすがに焦るでしょうよ!
よって、むだな抵抗はせずずんずん歩きます。
この辺ほんとに生活密着型。
コインランドリーたくさん(『台北暮色』のルンルンだな!)とか
まさかレンタルビデオ店??とか。
そして
インコが消えたお廟発見
これとくに地図とか全然見てなかったんで嬉しかったなぁ。
こんな「そんな景色」感とかね。
そんな住宅街をてくてく歩いていたところで、
すっげぇ一角があったんです。
それがさっきの眷村建築が今も現役って感じで。
すげぇ……なんというか……
こわいの
なんか、こわいの……
なぜでしょうか。人住んでるのに。
小明の歯磨きする水場と、
製氷機普通にある大陸軍人の息子の生活の差を、
こんなところで感じたよ。
牯嶺街には壊れかけてるけど立派な日式の建物も多く、現在修理中だそうです。
近々また行って、あの世界に想いを馳せてみたいなぁ。
あ、この辺で結婚式みかけたよ!
ガーデンウェディングは、魏徳聖『52Hzのラヴソング』だね!
・台湾音楽ぶらり歩き
今回の隠れミッションは
「現地のライブハウスに行く」だったのです。
The Wall。一昨年は私の好きなバンド(JP)もワンマンやってます。
あえて!ライブTシャツ着て行ったのですが
冷房きいてて上着脱げずアピールできんかった残念
でてたバンドもそれほど響かず。
ノープランの強みで、
翌日、音源買いに1日かけることに。
おしゃれタウン、東門で腹ごしらえして、
いざ 歩きます!
いつも円盤は誠品書店でまかなっていたので、他にレコード屋とかあまり見かけず、どこで売ってるのかな、と思っていたの。「台ワンダフル」とかサマソニとかで見たことがあって、いいなと思ったバンドの円盤とか。こちらに来なかった映画の円盤とか。
あちらは音楽・映画関係の店は結構インディペンデントにあるのね。
私が向かったのは、
台湾インディーズならここ!らしいです。
今、とってもたくさんの台湾ミュージシャンが日本で紹介されつつありますが、
私は今まであまり動画環境が良くなかったので詳しくありません。
店員さんにオススメを聞きたいところですが、自分の好みもありますよね。
ちなみに私のお気に入りはこのへん
しまった私は英語も中国語もできなんだ
「はーい、ちょっと見てるだけで えへへへ」あー超ブロークン。
店員さん、苦笑い。試聴できるよ、と言ってくれるのですが
どれ聴いていいかさっぱりわからん
・こんなところにスコリモフスキ
さて。
ここ、なぜかでかい本棚がありまして。
日本のマンガやら音楽関係の本やらに混じって
2011 台北金馬影展のパンフがありました。
ソファに座って、なにげなくパラパラして
仰天しました。
スコリモフスキ『早春』じゃねーかよ!
上映されてんじゃん!2011年の時点で!おとなり台湾では!
ちょっと待て。
日本では権利クリアに時間がかかり、2018年やっと公開になったこいつが。
ひぇぇぇぇ
うろたえて「しゃ、写真いいかな」と聞いた時、
店員さん、「なんでそんなもの撮るのかな」的な微妙な微笑みを浮かべておりました。
しかし『浴室春情』って言い得て妙だな。『早春』よりぴったりだよ!
壁には、胡波『象は静かに座っている』の銀色ポスターが。
「わたしこの映画好きなんだよね」と言ったところでだいたい納得してくれたようです。
わたしがちんたらソファで雑誌を眺めている間、店員さんはあれこれオススメの音をかけてくれていました。
お?これなんかいい。なんか懐かしい。
と思って、これくーださい、と買ってきたのがこいつ。
love_1(愛是唯一)のファーストアルバムだそう。
今、懐かしのシティポップが海を越えゆるゆる再評価されているらしいですが、そんな感じ、ベースとドラムスがジャジーにいい効き方してたりします。オシャレ!
2019.03.23@THE CAVE
このアルバム、フルで音源YouTubeにあがっているのでw
タダで聴けるよw
まぁ円盤持ってるという満足度あるよね
ノープラン6日の台湾の旅。
毎回注意点がアップロードしていきます。
ノープラン、Wi-Fi容量不足は命取り!台湾野良Wi-Fi役に立たないぞ!大容量用意しとけ!
雨予報だからキャンバスシューズやめて重たいマーチン履いていったが、やめとけ!とにかく歩くから死ぬ!重い!重すぎてマッサージ代かさむ!
雨の準備を怠らなければ雨は降らない(これほんと。長靴履いていったら雨は降らず、暖かいだろうとタカをくくっていたらウルトラライトダウン手放せず)
ノープラン6日はキツい!3泊4日くらいで地方もかんがえとけ!今度は台南日帰りとかいいな(また行く気満々)
台北駅裏の宿はコンビニまでの距離を確認しとけ!
俺が今回泊まった宿はコンビニまで遠すぎて難儀した周囲も暗すぎ怖かった
たまにはバスタブ浸かりたい!一人になりたい!
シングルルームマメにチェックな。
タイガーエアは成田空港第二から行けるのでいい
そしてそして
英語はちゃんとやっとけ!!!!!!
新宿の中華料理屋の親父も英語ペラペラだったっすよ(さっきのこと
【余談】フェブラリーステークスで思い出した。【映画の話だよ】
昔、わたしは競馬が好きだったのです。
しかし馬券のセンスは皆無であり、仲間はわたしが記入したマークシートを「いか予想」と呼びくさり、
わたしが買う馬券を外して買いやがるのである
実際、鉄板で武、という場面でも
いかちゃんが買うと武でも飛ぶわ
ええ、飛ばした回数は数知れず。
土日がない仕事になり、贔屓の騎手も引退し、個性的な馬がいなくなり、わたしは今は全然競馬をやっていません。
最近の若いモンに「昔はなぁ…」とやってる時わたしは立派なおっちゃんであります。
2/17。
第36回フェブラリーステークスが開催されました。
話題は
1200までなら強いけど…という評価の馬でしたが、
見事な後方一気、5着入賞!
初めてJRAに女性騎手が誕生した頃に競馬にハマっていた自分にとって感慨深いものがあります。
ちょっと泣いてもいいですか。あれから何年たったんですか。
この藤田騎手の師匠が、根本康弘調教師です。
騎手時代の戦績は235勝。え?というほど「勝ち鞍」は多くありません。
わたしもその全盛期は流石に知りません。
しかし。この内容が凄い。
中山大障害3勝
そして
ダービージョッキーでもあるのでした!
濃すぎるわ。
メリーナイス。栗毛四白流星という派手な馬体に、鞍上根本の「ヨーロピアン」と呼ばれる
へんな
乗り方。6馬身差の圧勝だったそうです。
流石にわたしも観てないので動画をどうぞ。
わたしが競馬にハマり始めて間もなく、根本騎手は調教師に転身しました。
面白くて面倒見がいい人なんだろうなぁ。
マーチS、アミサイクロンで大穴をあけ、茶髪にピアスと当時珍しかった(いまだってそんなにいるとは思えない)いでたちで、別の意味で注目された平目騎手が、引退後根本先生の調教助手になったのでした(平目さん…悲しいことに自殺しちゃったんですよね…いつぞやのオークスかなんかのパドックで、ものすごいロックスターな姿で馬を引いていたのを思い出します)。
16年ぶりにデビューした女性騎手、藤田さんがいい感じに勝ち星を挙げられているのはきっと根本先生のおかげもあるんだと思います。所属騎手3人も抱えてるってすごい面倒見のよさだよ!
で、なんで私が映画ブログで競馬の話をしてるんでしょうか。
杉田成道監督『優駿 ORACION』(1988)に、この根本先生、オラシオンの主戦騎手役で出てるんだそうです!ちゃんと役名もあるよ!
なぜ律儀に伝聞調で書いてるかというと、わたしこの映画観てないからですw
劇中の日本ダービーのシーンは、この第54回日本ダービーの実際の映像が使用される予定だったそうです。優勝馬をオラシオンに見立てるやつ。
しかし、この時の1番人気はマティリアル。全然メリーナイスはマークされていなかったのはご覧のとおり。
さらに、マティリアルとメリーナイスは毛色からして全然違うため、マティリアルが勝つ、と想定して準備された仔馬を探しなおす羽目に陥ったそうです。ウィキペディアより。
ゲート開いたら落馬
なるオモシロをしでかしたやつでもありますが、
これも使われているそうで。
このシーンがらみで、根本騎手ちゃんとセリフあるんだそうです!
俳優根本康弘!
ごめんなさい久しぶりに競馬の話したかっただけなんです。
そんだけなんです。
これまでの執筆まとめ。
これまで書いたレビューをまとめてみました。
2015年
第16回東京フィルメックス ツァイ・ミンリャン特集について書きました。
ツァイ・ミンリャン大好きです。
ツァイ・ミンリャン『ヴィザージュ』の初見時メモを6年寝かせてリライトしました。
2016年
2017年
『リトル京太の冒険』について書いています。民俗学的な観点が間違っていることが後ほど判明しましたが、後の祭り……
『夜は短し歩けよ乙女』について、座敷牢に閉じこもってるおばちゃんに聞きました。
元・図書館員です。食ってけねえのでやめましたが、アメリカの状況は……
四半世紀心待ちにしていた映画について書きました。待てば叶う!
(でもこのブログではもっと詳細にあれこれ書いてますけどね)
2018年
第18回東京フィルメックスで上映された『ジョニーは行方不明』(公開時タイトル・『台北暮色』)について書きました。
『30年後の同窓会』について、座敷牢に閉じこもってるおばちゃんに話を聞きました。
以上、
に掲載された文章です。
ことばの映画館は冊子も発行しておりまして、私は3館と4館に参加しています。
リンク先にて内容が確認できます。神保町矢口書店ではまだ現物売ってくださっているのを確認しました()
密かにアップリンクさんでも取り扱いがあります(売り切れてなければ)。よろしければお読みください。
(渋谷TSUTAYAさんでも取り扱ってくださっていた、との話がありますが、未確認……)
時々neoneo webにも載せていただいています。
昨年から明らかにペースが落ちていますね…
順調に書けていた頃は、はっきり言って無職に近かったのです。
最近は不規則な肉体労働がたたり、書きたいのに書けない……媒体に載せるにはすごく慎重に書かなきゃならんですからね……(慎重さがあんまり功を奏したことはない)
そこで気楽に書けるところを、とこのブログを開設したのですが、
休み不規則すぎてパソコンに向かえない
今年はもっと書きたいです。
リクエストもお待ちしています()
『象は静かに座っている』レビュー掲載のお知らせ。
ごぶさたしております。
neoneo webに掲載していただきました。
フー・ボー監督『象は静かに座っている』レビューです。
http://webneo.org/archives/46590
フィルメックスで、neoneoの金子先生にお会いしたとき、
『象』書いてみない?とお声をかけていただき、
「はーい」
と軽ーく返事した後に
これは大変な作品を書くことになった
と震える思いをしたものです。
いろいろ頑張りました。ぜひお読みください。
第19回東京フィルメックスが終わって、私の冬がやってきました。
今年の映画祭ラッシュで驚いたことがあります。
毎日毎日毎日毎日朝から晩までどっかの上映観てる人が
世の中にはこんなにいるんだってこと
いつ寝てるの?いつ起きてるの?電車とか乗ってんの?
そもそも
おうちにちゃんと帰ってるの?
そんな映画好きというよりむしろ尊敬の念を込めて放送禁止用語すら持ち出したくなるような方々の
情報を網羅し、適切な作品を選択し、チケットを確保し、いついかなる時間でも
そこに時間通りに行く
という、秘書と運転手でもいるんですかっていうような自己管理能力に恐れおののいております。
私自身は、(なぜか秋に集中している気がする)特集上映の全てを網羅してると
そもそも働けねぇということは収入がねぇ
自分が従事する仕事はバカでもできるとはいえ、ある時間拘束され、「時間を売らない」限りは安酒も呑めず睡眠も取れない。
俺は睡眠に課金しています
そして
毎日真っ暗な中で過ごして終電で帰宅ってのは自律神経にきませんか
やられました。腰と全身の筋肉と自律神経が。ただでさえ息してない自律神経が完全に逝かれました。
眠れない薬が効かない
めでたく一旦眠れたら今度は起きられない
というわけで
後半戦はお昼の上映にすら間に合わないという体たらく
もう諦めて 今日は行かね とお家から出なかったら
その日にかかった映画がグランプリだったりするわけですよ
というわけで前置きが長うなりましたが、
第19回東京フィルメックスについての雑感を書いてみましょうかね。
改めてこちらをどうぞ(とサイトを示す雑ブログ)
その豪華さにおののいた今年のラインナップ。
しかし、例年「なんとなく傾向はあるな」と感じてきたように
今年もしっかり「トレンド」はありました。
正直、「……またぁ?」と思わせるレベルで。
世界各地で似たような民話や伝承が同じような時期に発生する、という民俗学的な説でも納得します。
今年の傾向は
「フィルムノワール」
「自と他、現実と夢(あるいは銀幕の中外)の融合」
「見知らぬ男を助ける」……
そして「ウォン・カーウァイ」。
コンペ作にとどまらず、アミール・ナデリの最新作までバッチリそんな感じ。これはどういうことなんだ。
審査員特別賞、ペマツェテン監督『轢き殺された羊』。
これは実際にウォン・カーウァイがプロデュースした作品で、「西部劇テイスト」を無理くりフィルムノワールに当てはめるとすべての要件をクリア。
いやこれすごく面白かった!
実はフィルメックスでペマツェテン監督作を観るのは初めてだったので、この洒脱なユーモアが「もともとそう」だったのか、ウォン・カーウァイの影響なのかがわからないのが残念です。
いかつくも心優しく信心深いトラック野郎と、
小汚くも端正かつどことなく育ちの良さを感じさせる旅人、2人の「ジンパ」。
旅は道連れ世は情け、袖すり合うもなんとやら、マニ車の回転もかくや、「輪廻」なる概念をも思わせる2人の縁。
スタンダードの画角は無駄に「辺境」を売りにすることのない収まりの良い大きさで、
肝心の2人の顔を正面から撮っても「顔を半分しか映さない」。
荒野を突き進むトラックの轍の跡を彩るのは なんと「オー・ソレ・ミオ」大音量w
トラック野郎ジンパが、轢いてしまった羊を律儀に弔うシークエンスも最高です。
戸惑う坊さん、茶々を入れる寺男。
そして「羊の恩返し」のように、それからの物語は転がっていくのですが……
羊肉半身分(ワイルドに売られてる食用)を担ぎ、
茶館で食らうは
肉1キロ(骨つきをセルフで削り取りながら食う)
まんじゅう15個
お茶ガブガブ
怪しいバドワイザー2本(謎の作法あり)
それでもまだ食うんか!
実は飯テロ映画。
色っぽい茶館の女主人が語る旅人ジンパの物語は、そっくりそのままトラック野郎ジンパの「いま」そのまんま。(ここの撮影が超かっこよかった)
この2人の境目はどんどん溶けてゆきます。
そんな夢とうつつの曖昧さはチベットの箴言に基づいているらしい。
だから、たぶんしばしば現れる「回転」のモチーフ(トラックの車輪、茶館のじいさんが回すマニ車、そして2人のジンパの、円環を思わせる縁)が説得力を持つ。
そうなんだよな、
今回ぼんやり今年のトレンドと受賞作を眺めていて
ハイレベルにもほどがあった出品作の数々の中から受賞するっていうのは
「裏がしっかりしている」からなんだなぁ、と思ったんです。
スペシャル・メンション、広瀬奈々子監督『夜明け』。
川べりで気絶している男を助け、連れ帰り世話をする初老の男。
なぜ彼がこんな素性も知れぬ怪しい男に親切なのか。
この作品には、先に挙げた「見知らぬ男を助ける」「自と他が曖昧になる」ふたつの題材が見られる。
他者として扱われる自己と、それに応え、越えてしまいそうになる自己。
しかしその理由は恐ろしいほどの「投影」であり、過剰なまでの「共同体への幻想」であり、自己を捨て共同体に取り込まれそうになっていた男は、そこから自らの力で脱出する。
公開が間近ということで、抽象的な表現になってしまって歯がゆいが、このように「きっちりした裏付け」があるというのは強い。そして、私が個人的に好感を持ったのは
・溶けそうになった自我を取り戻すことに成功し、絡め取られた網から逃げ出すことに成功した
・「家族」「絆」と、善きものとされている概念を疑い、その薄気味悪さを描けている
ここなんだ。
溶け合った「自」と「他」、そのままこの世ならぬ世界に行ってしまう作品が多かった。「自我を取り戻す」までを描ききった作品、意外となかった。
そして「絆」の薄気味悪さ。絆、縛るものだよ。なんでそんないいものだとされているの?
もちろん、是枝ブランドは強いなぁ、とも感じている。監督自身も「恵まれていた」と語る。そりゃそうだ。是枝のコネクションをフルに使えるんだから!
そして、「イレギュラーな家族」を描き続けてきた是枝監督のお眼鏡にかなったこの企画。やっぱりなんつーか、「是枝の直系」だ。
この先、「脱皮」できるか?
(どうでも良いが、監督がこの作品を作るきっかけとなったのは東日本大震災だというが、この作品からは震災の影響は感じない。あれから日本にはいろいろな災害が起き、「日本全国総被災地」だ。「震災」「フクシマ」からインスピレーション受けた、というのはなぜこんなに多いのか。)
個人的に今年の目玉だった、ビー・ガン監督『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』。
学生審査員賞を受賞しましたが、
これ扱い難しかったんじゃないかなぁ。
映画そのものが壮大なる実験なんだもん。
で、先ほどの「今年のトレンド」では、「フィルムノワール」「銀幕の内外の融合」「ウォン・カーウァイ」3つにあてはまる。
てーか今日本の自主制作界隈で「クロサワの弟子」がぞろぞろ出てきてるのと同じように、
「新鋭が巨匠となった今」フォロワーがぞろぞろ出てくる頃なのかな。
ウォン・カーウァイがアジアの若い作家に与えた影響半端ないんだなぁ。
もう青いネオンに赤い照明、雨ざんざかの画面見ると全て「あー」と思っちゃうよ。そこからどう「脱出」するかこの先の楽しみになるのかもなぁ。
結構賛否両論のこの作品でしたが、個人的にはここまで風呂敷広げてくれると好きにならずにいられません。冒頭の人を食ったような注意書きを忠実に実行する観客の皆さんが素晴らしい。
前半が好き、後半が好き、そもそもどちらもわけわかんなくて苦手、そもそも3Dにする理由がわからない、などもう言われたい放題ですが、ありったけの実験精神をここまでスタイリッシュにまとめた手腕と、個人的には
後半の超長回し、セットかロケか知りませんけど、
ものすごいダンジョン感で、この動線考えた人天才なんじゃないかと思う。
深さ、高さ、低さ、奥行き、素晴らしいとしか言えない。
その上で思わせぶりな前半部を全て回収してるの。うまい!
だって前半全然意味わかんなかったんだもん。
予告編でカラオケ歌っている白いパナマ帽の男は主人公じゃないって案外気づいてない人多いんじゃないかしら、って言って自分でも自信ない。奥でぶら下げられてたのが主人公だよね?そのレベルでバラバラに放り出されたパズルのピースが、「夢」あるいは「映画内映画」で回収されていく小気味よさ。それをほぼワンカットですよ……大変な実験ではないですか。
いや、本当に夢のような映画体験で、私も行ったきり帰ってこられなくなりそうでした。
「映画体験」ってうっかり言ってしまいましたが、まさにその言葉がピシャッとハマる作品だったんじゃないかな、って思います。全体の出来が図抜けてた、というよりもむしろ。
来年の夏、ビー・ガン監督の前作『凱里ブルース』と一緒に公開されるそうですが、その時に3Dで観られるか、こんないい音響で観られるか、わかんないですからね。
さて。
グランプリの発表です。
これまでのフィルメックス受賞作の傾向って、やっぱりありました。「社会問題」です。
今回のコンペ作って、意外とそれを扱っているのがなかったんです。もしくは、隠し味として使われているか。その地域の問題を、より普遍的な物語として描いた結果、問題が薄れてしまった、という感があるものも(かえって、「ひとつのおとぎ話」として捉えることができた、という好意的意見もつけ加えておきます)。
そして、意外と「女性が強い」作品も、あんまりなかった。きょうびの流れ、ここはポイントかなぁ、と。
そして、何より私が「これが獲るかな」と思った理由は
私が観ていない作品であるということ
はい、予想は的中しました。
グランプリは、セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督『アイカ』でした。
不法移民女性の過酷な運命を力強く描いた……とは言っても、観ていないんだからあまりいろいろ言えません。
フィルメックスに強いテーマって、やっぱりあるんだな、ということと、
今回、賞の授与にはかなりバランスを考えたんじゃないかなぁ。
中華圏からの出品多かったけど、台湾金馬奨と色々モロかぶりだったし。
繰り返しますが今年のありえないハイレベルぶりには、
あんまり客にいいもんばかり食わせちゃいけないよ!
客が肥える! どんな素晴らしい作品にもいちゃもんつけちゃう!
としみじみと感じた次第でございます。カロリー高ぇ。まぢで。
しかもどれもこれも演出が洗練されてんだよ…一時「見せたもん勝ち」的な品のないリアルばかりだった時もあったじゃん……あれ辛かったからさ……
しかも今回は開催期間に比べて上映作品がぐっと増え、1回上映で観逃した作品が多いことが悔やまれます。
丈夫な体と通いやすい家と
毎日通っても平気な財布が欲しいわ
実は、今年の目玉のひとつ、フー・ボー監督『象は静かに座っている』
これは観客賞がなければないな、と思っていました。
観客賞は近浦啓監督『コンプリシティ』。なんと開会式+ホン・サンスの裏でやっていた作品です。
開会式を蹴って行く客が多い映画……そりゃファンが多そうです。
もっとも、今年の観客賞投票はQRコードでの投票、どうやって集計して結果出しているんだろう、と統計方面的に不思議だなと思ったりもしてしまいました。
テキストばかりで延々のんべんだらりと書いてきましたが、
秋の例大祭、終わりました。
対照的なこのふたつの映画祭。
お金のかけどころを間違ってる、としか思えなくなってきたTIFF。
レッドカーペット、いらないんじゃないかなぁ。
開会式のお偉いさんの口から出る『東京物語』。本当に見たことありますか? 私はないです!
審査員長の苦言も「リアリズム一筋の人に言われたくないなぁ」とちょっと反発したりしたのは事実ですよ。映画に対するスタンスはひとつじゃないはず。
だから今回TIFFコンペについては何も感想はありません。もうコンペですらなくていいと思う。セレクトは面白いんだから。
フィルメックスの開会式はわずか10分。
存続の危機を乗り越えた感謝の言葉が、フツーに淡々と述べられ、
普段着の審査員たちが控えめに壇上に立ち、それだけ。
さっさとオープニング作品上映へ。
去年まではセレモニーじみたものはありました。それをばっさりカットしたという、潔さ。それで十分なんです。
審査委員長のウェイン・ワン監督も「レッドカーペットがないところがいい」と言ってましたよね(通訳さんが訳し忘れて、後で漫談みたいに訂正してたので、私の英語耳が正確かどうかちょっとおぼつかないのですが……ってか、アワードってそんなゆるくていいんだ! と、司会進行はミスが許されない、と叩かれてドロップアウトした自分にとっては目から鱗でした)
あとどうしてもフィルメックス公式ゆるキャラにナデリンを据えることはできないかw
朝日ホールに住んでるんじゃね疑惑!
さて。
秋最大の楽しみだった東京フィルメックスが終わり、
日常が帰ってきます。
働かなくちゃ、と思いながらも
思うように日程が埋まらなくてどうしようと思っている……そろそろ冬。
通いやすいところの仕事くださいできれば都内しかも屋内がいいです