映画について私が全然知らないいろいろな事柄

@ohirunemorphine が、だらだらと映画についてあれこれ考えます。

【大傑作】『渚のシンドバッド』の「あの女優」【どうしてこうなったし】。

 

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私はテレビドラマを見る習慣がないので

昨今褒められてんのか貶されてんのかわからない「アノ」ドラマ

M 愛すべき人がいて」は見てないし今後も見る予定はないのですが

 

アノ歌姫が一世を風靡していた時代はよく知っております。

あのステッカーを貼ったクルマがようけ走っておりましたな。

 

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違うそうじゃない

 

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こっち

 

当時バイトしていたお店でおばちゃんが読んでた女性誌には

必ず彼女の姿があったので

トレンドって一種の刷り込みなんでしょうか

 

なんだか俺も当時髪の色がミルクティベージュだったような気がするんです

 

しかし。

こんなネタみたいな物語以前の彼女。

知る人ぞ知る青春映画でトリプル主演張ってたはずなんです。

観たことあるはずなんです。理由は後述。

 

というわけで借りてきました。

橋口亮輔監督『渚のシンドバッド』(1995)。

ありがとう渋谷TSUTAYA ! でかい画面で観ると違うわやっぱ

 

www.youtube.com

 

さて。

この青春群像劇。

早くも30分ですでに涙腺があやしくなりはじめ

だんだんとティッシュが手放せなくなり

私は視力が悪いので眼鏡をはずせないままボロボロと涙腺が決壊するという

こういうときどうしていいのかわからないの(視界の確保という問題)

 

改めて観てこんな傑作だったとは。

高校生の初夏から夏にかけてのわずか数ヶ月(下手こくとひと月とかそこら)を

淡々と長回しで撮影しているのですが

脚本と人物像が恐ろしく造り込まれており

あぁぁぁぁぁ なんという没入感でしょう

 

中学高校の頃なんて

あの子はあの子が好きらしい

あの子とあの子は付き合ってるらしい

あの子は誰が好きなんだろう

そんなことで教室はパンパンに膨れ上がっておりましたよね

(当方 地方の市立共学マンモス校ヤンキー率高しの中学で剣道に励み

    高校は県立共学一応進学校ではありましたがあまりにものんびりしておりました)

 

あのモテモテの先輩は誰を選ぶんだろう選ばないんだろう

第2ボタンは誰がゲットするんだろう

なんかあの1年生ぜったいあの2年生好きだよね

 

そんなことで部活はパンパンに膨れ上がっておりましたよね

 

しかし私は「好き」の感情はあっても

その先のことが全然わからなかった

とんでもないガキというかお子ちゃまというかだったので

憧れの先輩がいてもどうしようもなかったわけで

(そしてどういうわけだか

 本人が本人の卒業式で

 女子に 群がられて

 制服のリボンも名札も汚いスクールバッグも

 片っ端から貰われていった という不思議なことも)

 

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この映画なにが素晴らしいかって

思春期の「好き」という、相当なベクトル量を持った一方的な思い込み

そのまま突き刺すままにさせておいて

その「残酷さ」「かけがえのない純粋さ」「純粋さゆえの残酷さ」

以下鎖のように絡まったそれぞれの事情と無意識の感情を

全く作為的ではないのに実は非常に造り込まれた状況で見せてくれるという

 

ごめんなさいなに言ってるのかちょっとわかりませんよね

 

これ役者も若いのにすごい演技力求められたと思うんですけど

(草野康太も岡田義徳もいまだに第一線ですよね)

この2人を相手に一歩も退かない

女優 浜﨑あゆみのとんでもなさ

教室をも支配してしまうその眼力。

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よくよく見れば今ではアウトな表現がめっちゃ出てきますし

(高校生が普通にタバコ吸ってるなんて今はぜったいアウトですよね)

(けど私の中学時代は普通に校舎の陰でタバコ吸ってましたよ普通の子が)

(背伸びしたいお年頃)

 

「同性愛」「レイプ」という本人の意図とはどうしようもない事象に

翻弄される子どもたちもいるわけです。

アウティングも「からかい」と「やきもち」が原因。

今ほどの重みがなかった時代です。ごめんなさい私にも覚えがあります。

多分私があの頃とった行動、今ぜったいアウト、っていうのあります。

 

全員複雑で自分勝手な子どもたちですが、

その「勝手」のチラ見せが全パターン違うってのも凄い。

「理解者のふり」して「自分がかわいいだけ」を暴露する言葉も突き刺さる。

よく練られた脚本と演出だなぁぁ。

 

ラストシーンがまた……

構図で「勘違い」をあらわし

丁々発止の言葉のやり取りで「消え入りたくなる疎外感」をあらわし

体を張った「謀略」もある。

全てが不器用で、しかしこれ以上はどうしようもないのです。

この頃にはポケットティッシュにまで手が出ておりました

 

危うい強さと脆さを持った少女。

この難役を演じ切った「あゆ」ですが

ずっと長い間「痛いヒト」「オモシロコンテンツ」として消費され続けています。

 

彼女の名演は、あらかじめ持っていた「痛さ」ゆえなのでしょうか?

まぁ、人となりなんて、私たちには関係ありません。

 

ただ、

彼女のキャリアの最初期である『渚のシンドバッド』は

おそらくもっと高く評価されるべき作品で

その中で素晴らしい演技を見せた 女優 浜﨑あゆみ がいた

という

そのことだけで充分です。

 

ちなみに。

なぜこの映画をビデオで観た記憶だけがあるかと申しますと。

 

無気力な大学時代に毎週講義サボってでも聴いていたラジオがあるんです。

いまだに贔屓にしております市川笑也が当時パーソナリティを務めていらした、NHK-FM「邦楽ジョッキー」

元・男闘呼組高橋和也さんがゲストで出てた回があったんですが、

そのときこの映画の音楽を担当された話になって。

youtu.be

この動画、貼ってしまっていいものでしょうか。

もしイケナイコトでしたらごめんなさい。

 

笑也さまの低音で滑らかな美声によって紹介された、

繊細で素敵なこの曲に惹き込まれて、

私はレンタルビデオで『渚のシンドバッド』を借りて観たのです。

そして今、改めて要所要所にさりげなく流れる劇伴の効果を実感しました。

はかなくもどかしい子どもたちの想いと、

彼らを取り巻く美しい光景に寄り添う、音楽。

 

昔ビデオで観た映画なんてあんまりよく覚えちゃいない。

橋口監督は『ハッシュ!』を劇場で観たかな。

『恋人たち』は3時間ものでしかもテアトル新宿のレイトだったから

機会が合わなかったんだ。

 

 

 

私はどうも大人になってからうまく人生が捗っておりません。

(諸事情につき私の「大人」は30を過ぎてからのことです)

ゆえに、

いろいろなことにもがきながらも、

確かに輝きがあったあの時代に思いを馳せると、

無条件に涙腺のパッキンが壊れる悪い癖があるのです。