映画について私が全然知らないいろいろな事柄

@ohirunemorphine が、だらだらと映画についてあれこれ考えます。

人生の実り。(第32回TIFF『リリア・カンタペイ、神出鬼没』)

……またもごぶさたでした。

 

ええ、やられてました

自律神経の不調と

 

アルコール中毒の足音がひたひたとしのびよる日々でした

 

もうね、ブログ更新する気にならないの。

パソコン開けないの。 

まぁいいわ。書き始めれば書き終わる気になるでしょ。

 

さて。

先日の第32回東京国際映画祭

ラインナップみて

   

    えらくまぁ

     渋い方面に行ったな。

       渋いっていろんな意味でね‼︎!

 

ほんとに渋かったのよ。

                              来年大丈夫かってな勢い。

 

私はもう色々諦めて

観られるもんを観ることにしました。

 

結果

東南アジアの珍品が揃いました

 

親指立てて溶鉱炉に沈んでいきそうなインドネシア映画とか

雪山のホテルの中でクリーチャーと決死の闘いとか… なんかそんなん観たことある……これとかこれとか……

月面着陸はフェイク?を目撃してしまった可哀想なおっさんを、まさかのデヴィッド・リンチ感満載で描いた作品とか

なんか妙なもんばかり観てました。

 

コンペ……

観なかったなぁ。

『ばるぼら』アトランティス』しか観なかったかなぁ。

いや、なんかスケジュールが合わなかったんです。

 

ワールドフォーカス……

   来年にはもっと減ってるんじゃないの?

 

   仕事全抜きしてまで通うほどのもんかなぁ、

   と来年からちょっと考えた方がよさげかも。

 

ところで。

東京国際映画祭では

時に素晴らしいドキュメンタリーが上映されます。

第31回で上映された『カーマイン・ストリート・ギター』、

第30回で上映された『サッドヒルを掘り返せ

大好きです。

 

こういう「琴線に触れる」作品があるから映画祭通いはやめられない。

今回もありました、そんな愛すべき1本。

 

 長年「無名の職人」だった人が

人生の大詰めでスポットライトを浴びる瞬間。

そんな「ありそうでなさそうなこと」

あったら素敵ですよね。

 

例えば……『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)。

行方すら定かではなかった老音楽家たちを探し出し、

全世界的スターへと押し上げたのは

ライ・クーダーヴィム・ヴェンダース

あの今も残る名曲の数々は、

無名の音楽家と、

彼らへのリスペクトがあってこそ。

 

今回突然、8年も前の作品が上映されました。

とある老女優。

映画出演数はギネスもびっくりクラス。

しかし、彼女の名を「誰も知らない」

彼女の名は リリア・カンタペイ

 

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魔女やら幽霊やら、不気味な役やらせたら天下一。

30年もの間、そんなハンパない端役を務め続けた彼女が、

賞レースに放り込まれた!

さあどうなるどうなる?

 

素顔はとってもチャーミングな、フィリピンのおばあちゃん。

住んでいるところは、生活感あふれる……ちょうどそう……ブリランテ・メンドーサ『ローサは密告された』 (2016)の舞台となった住宅街にも似たカオスで活気あふれる街です。

家族、ご近所、皆とってもパワフルでチャーミング。

 

ノミネートを新聞で知って本人に知らせなかったのかよ)、

突然のスポットライトにそわそわドキドキのリリアさん。

お仕事の依頼は近所のおばちゃんが受けてくれます。

何度も何度も、近所のおばちゃんに「依頼ない?」「依頼ない?」

おばちゃんはその度笑顔で「ないよ!」

 

たまにエキストラのお仕事が入ってくると気合満点。

娘さん(?)を付き人に意気揚々と現場入り。

しかし……

 

あくまでエキストラとして呼ばれたリリアさん。

待遇はあんまり芳しくありません。

     トイレも使わせてもらえないのです。 

 

プロとしてのプライドがあるリリアさん。

セリフの有無の確認も抜かりありません。

しっかり役作り。

しかし……

 

「ホラーで顔を知られ過ぎている」という理由で……

 えぇぇぇ

 

権威ある賞の助演女優賞ノミネートということで

テレビ取材がきます。

リリアさんの勇姿をテレビで観よう!

街のみんなが集まります。

しかし……

 

ここで。

すみません。

結構私、ミスリードされていました。

この作品。先ほど数本ドキュメンタリーの名作佳作を挙げておりましたが、

これ、ほぼフィクションらしいのでした!

 

リリア・カンタペイという、実在の女優。

フィリピン映画界でエキストラ人生を極めた彼女と、エキストラが置かれるゆるーくも理不尽な状況を、

これ以上ないユーモアと愛情をもって描いた、フィクションだったのです。

 

ご家族もご近所も、みんなプロの俳優さんが「演じた」もの。

ちょっとこれには驚きです。

 

膨大な出演数を誇るリリアさん。

知る人ぞ知る存在。ファンサービスも怠らず、プレゼントするグッズもちゃんと用意されている(このグッズのデザインがまた秀逸なのでみんな観てほしい。面白おかしく丁寧なこういう細部の仕事、これぞモキュメンタリーの醍醐味かもしれません。)

彼女を通じてフィリピンの映画スターは皆繋がっているという。(ケビン・ベーコン指数、という例えがすごくおかしい!)

授賞式のシーンにもそのことに対するリスペクトがしっかり伺えます。

 

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スターだけではなく、それを支えるエキストラにも、もっと光を。

現在は大スターをも起用して映画を作っているアントワネット・ハダオネ監督の、若き日の熱意。

 

街の人々に訊いてまわります。

「リリア・カンタペイを知っていますか」

街の人々は首をかしげます。

 

しかし、リリアさんの写真を見せると、彼らはとっても優しい笑顔を浮かべて

「この人なら観たことがありますよ」「よく映画に出ていますね」

長年映画に出続けてきた彼女。彼らにとっては「刷り込み」のように記憶に残る存在なのでしょう。

監督の愛情しか感じられないこのシーン。

 

『リリア・カンタペイ、神出鬼没』

ここでリリアさんに与えられたキャッチフレーズは

「フィリピン・ホラーの女王」。

女王ですよ! すごい出世ではないですか!

 

地道に求められた役割をこなし続けてきた、老いたるプロフェッショナル。

決して、彼らは「栄光」を求めてきたのではないと思います。

あくまで彼らは、職人として、生活の術として、その役割をこなし続けてきたのだと思います。

 

しかし。

それに意味を見出し、別の角度から光を当ててくれる。

そんなサポートによって、

彼らの仕事が広く知られることになったなら。

それは彼らの人生にとって、思いもよらぬ実り。

素敵なことではないですか。

 

さて、この作品はほぼフィクション、台本どおりなんだそう、と先ほど申し上げました。

しかしリリアさんは、「自分のドキュメンタリーである」と認識していたそうです。モキュメンタリー、という考えがなかったのかもしれません。昔ながらの映画人ですから。

ちょっとこの辺りは制作の意図と演者の意図と食い違いがあったのかもしれませんが、

リリアさんの名演はその勘違いゆえかもしれない、と思うとそれもまた良きかな。

 

愛に溢れたこの映画、フィリピンの映画祭に出品されました。

シネマワン・オリジナルズ映画祭2011

 

……主演女優賞を獲得したのは

リリア・カンタペイ!

よくご覧ください、Wikiにもしっかり! 

泣ける話ではありませんか。

(追記・今頑張って英語Wiki読んでみたら、フィリピン国内各賞のみならず、ウーディネ、スイスのヌーシャテル、そして釜山にもオフィシャルで出品されているようでした! リリアさんが現地を訪れた写真もあります。

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https://m.inquirer.net/entertainment/65326

すごい! )

 

フィリピン・ホラーの女王、リリアさんは3年前にお亡くなりになったそうです。

そして、制作から8年の時を経て、この作品は私たち日本の観客へ届けられました。

 

映画愛っていうとすっごくすり切れた言葉かもしれません。

けど、それって確実に、あるんですね。

 

ちょっと涙を拭いながらシアターをあとにしたのは内緒です。